湯上り 豊信
柱絵判漆絵 67.0×15.8cm
落款:阻篠堂石川秀抱豊信圓 板元:村田屋治郎兵衛
所蔵:シカゴ美術館
移香ハ さめてあやめの 匂ひかな
「咀篠堂石川秀胞豊信図」とあります。伝記でも記しておいたように豊信は決して浮いた世界に足をふみ入れなかったと伝える。糠屋の娘に恋幕されて入り婿となったと言うから、豊信その人も美男子に生まれついていたにちがいません。浮世絵師に投じて豊信の描くところは、主として美人画でありました。その美人画の中に一時期「あぶな絵」と通称される色ものが流行して、さきに奥村政信の作例を挙げたが、この種の半裸美を描くのに熱心だったのは、篤実をもってきこえる豊信その人でありました。欲求不満を絵に託したのだ、といえばうがちすぎでもあろうか。湯上りの匂うばかりのやわ肌をのぞかせて、涼をいれる女の美しさであります。女描きに血道をあげた歌麿らの、案外に露呈するデッサン無視とちがって「あぶな絵」には女性の肉体美が的確に写し出されていることは、豊信の場合でも明らかであります。
石川豊信 Ishikawa Moronobu