柳の糸 政美
中判錦絵 25.7×19.2 cm
落款:政美画 板元:蔦屋重三郎
所蔵:東京国立博物館
「ながくと柳の糸のみだれ髪結ぶ人あれはとく風もあり」きゝら金鶏の狂歌のI首がそえられての錦絵で、数少ない政美の一枚絵では注目される一作です。金鶏は通称畑道雲という前田侯の医官、致仕諸国歴遊ののち向島に閑居した文筆の人、狂歌界に知られました。文化六年没行年四十三でした。
この絵は寛政初年の作と見えますから、金鶏の二十歳を越したころの賛であるらしく、政美としては一枚摺り美人風俗画に一境をひらこうとする創意に燃えていたでしょう。この美人の風姿をみると師匠重政の影響はきわめて微弱で、むしろ清長風の趣致が目立つようです。彼がそれへ傾勤したといってもよいですが、「清長風」と人よんで愛好されたころのこと、その感化がいかに至大であったかを物語ると見るのが順当ではありますまいか。枝垂れた糸柳を折る人という著想はよいですが。愛らし気が少ない憾みもないでしょう。
北尾政美 Kitao Masayoshi