源重之(浜風) 春信
中判錦絵 28.4×21.4cm
落款:鈴木春信画 板元:不明
春信の王朝文化に寄せる強いあこがれは、古典和歌の抒情を当世風俗のうちに再現しようとする、独特の美人画様式を生み出しましました。本図もまた、そうした古歌の兇立絵の典型的な作例です。
画面上部の雲形のなかに、小倉百人一首にも収められた、源重之の有名な和歌が記されています。
風をいたみ岩うつ浪のおのれのみくだけてものをおもふ ころ哉 波さわぐ海をながめる編笠姿の娘は、供をつれて江戸から遠出してきた、良家のお嬢さんというところでしょう。物想う乙女心を古歌に通わせたもので、浜風に裾を乱し、たもとや帯をなびかせるその姿は、楚々とした春信美人にふさわしい、やさしい風情をつくっています。摺りたてと見まがうほどの色彩の美しさや波を表す”きめこみ”のみごとさは、この版画がながらく人‐に触れず、理想的な状態で保存されてきたためです。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu