髪すき・佐野川市松と中村粂太郎 豊信
大々判紅摺絵 41.ニ×29.9cm
落款:阻篠堂石川秀肥豊信図 板元:不明
所蔵:酒井コレクション
桐の花に久米とある紋の中村粂太郎と同とある佐野川市松、髪を梳く、綿々とした愛情表現の図様であります。歌舞伎の一場面であるかも知れないが、こうなると一種の風俗画とみて差支えないでしょう。またそれは次期の春信あたりから盛大となってゆく錦絵の両様式に先駆する雰囲気を感じさせる。
元禄・享保頃にピークがあり、次は明和にはじまる天明・寛政の盛期が訪れて、宝暦頃は一般に様式の交替期であって一種の低迷をたどっています。そこには大きな文化史の転換があって、その影響が大衆的に現われています。そのためでもあろうが、その低迷の中にひとり気をはいたのが豊信であると言えよう。その人の性格からくるのぴのぴとした心情と、生きてそこにある人のような実有的感銘をもたせた画風は、この人のために特記しておかなければならないでしょう。
石川豊信 Ishikawa Moronobu