神奈川沖浪裏 かながわおきなみうら
現在の神奈川県横浜本牧沖を描いたもので、横浜本牧沖から富士を眺めた図。「浮世絵と言えば、これ!」というくらい世界的に有名な作品です。北斎が長年に渡って描いてきた波の作品の中でもダイナミックな構図と静と動が交錯する画面は圧巻の一図です。国内外の有名な美術館・博物館にも所蔵され、現代のアーティストに今なお影響を与え続ける世界的名画といえるでしょう。
近景左手に、富士に相似する三角の波が描かれています。その手前に押送船が進んでいます。その波の奥のもう一艘の船は、崩れ落ちようとする大波に向かっています。そして、一番奥の船は遠景の富士の前を進んでいますが、近景から視点を移動させて行けば、その富士は実は波の一つと見えるのです。逆に、遠景から視点を手前に移動させれば、手前の三角の波は、海上の富士なのです。こうして、押送船は富士世界の中を進んでいることが視覚化されてきます。
富士が遠くに鎮座し、大自然の厳しさと無力な人間を描いているのではなく、荒波を突き抜ける船とそれを操る人々のすぐ側に富士はあり、富士神霊に抱かれている日常を表現しているのです。富士信仰は浮世の信仰ですので、彼岸に富士があったのでは庶民には力になりません。同じ此岸にあって初めて、庶民は富士を体感できるはずです。
葛飾 北斎 Hokusai Katsushika