甲州石班澤 こうしゅうかじかざわ Kajikazawa in Kai Province.
現在の山梨県南巨摩郡鰍沢町を描いたもので、富士川に面する鰍沢(かじかざわ)の南側にあった禹之瀬(うのせ)と呼ばれる渓谷付近をイメージしたと言われています。自然の鋭く厳しい一面を、漁師の親子が岩上から投網を引き上げようとするこの図に集約させています。北斎の人物描写の上手さが凝縮されています。藍の濃淡だけで表現した大変色鮮やかな作品で、海外の人々には大変人気の作品です。
画面中央の岩場の上に網を打つ漁師が立ち、その傍らには魚籠(びく)を見守る童がいるという、孤高な人間像を感じさせる作品です。漁をする者、それを手伝う童にとっては日常の何でもない行為が、それを描いた浮世絵を見る者には、富士世界を構成する、仙人の神業のように、また神童がいるかのように見えるのです。背後の富士が単純な一本線で描かれており、漁師の打つ網のようにも見えます。この両者の対照が、当作品の狙いであったはずです。
葛飾 北斎 Hokusai Katsushika