身延川裏不二 みのぶがわうらふじ The back of Fuji from the Minobu river.
現在の山梨県南巨摩郡身延町を描いたもので、身延町にある身延山には、日蓮宗の総本山久遠寺があり、川沿いの道は、甲斐国と駿河国を結ぶ通りで、身延山への参詣道であったことから身延道とも言われていました。身延山に入る道すがら渓谷越しに見える富士。身延山久遠寺を訪れる人々と、その背景に流れる富士川。更にそびえたつ山々が荘厳な雰囲気をもって描かれています。色のバランスの美しさも絶妙です。
男性的な岩の固まりのような甲州の山並みと富士です。身延道を行き交う旅人達を描いていることから、裏富士シリーズの特徴である、街道(旅)と富士をテーマにした作品系列の一つです。
身延川から沸き立つような雲、同様の山、そしてその山々に挟まれ、頂上を覗かせる富士を旅人達は見上げています。その旅人達と言えば、波立ち、泡立つ急流の川と手前の山の間の街道を歩いています。この両者の狭隘さが共通の姿勢となって、富士と旅人達を結びつけているのではないでしょうか。
身延道の先にあるのは、身延山ではなくて、旅人が目にしているのは蜃気楼のように見える富士の頂上ではないのかとの錯覚を北斎は用いています。身延詣りを入り口として、視点を変えることによって、富士詣りを想起させる術です。
葛飾 北斎 Hokusai Katsushika