縁先物語 春信
中判錦絵 27.5×20.2cm
落款:鈴木春信画 板元:不明
所蔵:東京国立博物館 肩を抱き寄せ手首をおさえて少年の耳もとにささやきかける女は、障子のかげからのぞき見る娘の、乳母か侍女というところでしょうか。主人と仰ぐ乙女のみずからは打ち明けかねる慕情を、代わって届ける恋の仲介者とはなりましたものの、年増女の濃艶な風情をかくしきることはできません。まだ前髪をのこす紅顔の若衆に、熟しきった大人の口説を吹きこみ誘惑でもしているかのような、あやしいそぶりすらうかがえます。萩の花咲く秋の縁光という日常的な舞台の上で、ただならぬ恋の情緒を纒綿とうたいあげるところなど、いかにも。青春の画家”春信らしい絵画世界といえましょう。
左下の垣を起点として右上へ向かって進む繊細な斜線構図、あるいは壁土、庭の面、埴と三方を暗色系におさえて、主要場面を明るく浮きあがらせる色彩配合など、精緻に構成されたその画面は緊密な完結性を備えて間然するところがありません。数多い春信作品の中でも、代表的な傑作の一つとして知られています。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu