相州七里濵 そうしゅうしちりがはま Shichiri beach in Sagami Province.
現在の神奈川県鎌倉市南西部を描いたもので、夏の相模湾、現在の鎌倉稲村ヶ崎から見た富士です。藍色の濃淡だけで描かれた藍摺(あいずり)の作品です。色鮮やかな藍色は、当時ヨーロッパから輸入され、江戸の人々に大人気となったプルシアンブルーが基調となっています。人物も描かれておらず、北斎にしては珍しい純風景画と言えます。藍一色で絵にしてしまう北斎の上手さに魅せられます。
七里ヶ浜の海岸線を望まず、腰越村をほんの少し見せるだけにして、背後の鎌倉山という小丘陵から、中景の小動(こゆるぎ)岬や相模湾の江の島の向こうに富士を配置する構図となっています。水上コテージ風の家々は現実とは異なり、庶民生活が描かれていない作品群に帰属するものです。此岸の鎌倉山から岬を通じて彼岸の富士に繋がる奇景を絵組みの骨子にしているのでしょうか。
題名は「七里濱」となっていますが、描かれているのは相模湾です。近景から見えるものは、その湾に反射する日の光なのです。海岸際に少し波が描かれていますが、北斎にしては珍しく、海面は鏡のように表現されています。
葛飾 北斎 Hokusai Katsushika