辻君 歌麿
大判錦絵 38.7x26.4cm
落款:正銘歌麿筆
板元:松村弥兵衛
所蔵:東京閥立博物館
東京堂の『風俗辞典』で、「夜鷹」の項をみますと、「江戸の私娼の一種で、橋のたもと、柳の下、材木小屋、石置き場などのところに、夜間になると出てきて野天で淫をひさいだ女性達です。夜鷹という怪鳥がいたことから名づけられました。終戦後各地の街頭に出て客を引いたパンパン(俗称パン助)も、この種の者と同じです。京都では辻君、大阪は総嫁と呼んでいる」とあります。
手拭で髪をかくし、ござを小脇にかかえた姿からは、そうした女性の退廃性は感じられません。歌暦の筆にかかりますと、すべての女性が理想的女性として描かれるためでしょう。そして画中の扇面に書かれた「寄辻君恋 蓑笠亭槌成 立あかす恋路の暗のくろぬのこ顔のぞかかる身こそつらけりなさい」という歌が、まさにこの辻君の風情をいいつくしているといえましょう。
歌麿が「正銘廻麿筆」という落款:用いるようになったのは、あまりに歌漕に似せた作風を描く絵師が多くなったためといわれる。
喜多川歌麿 Kitagawa Utamaro