絶唱のあと 無款(師宣)
大判墨摺筆彩色 26.5×34.8cm
落款:なし 板元:不明
所蔵:商橋コレクション
西鶴の浮世草子はじめ元禄頃には軟派の俗文学が盛行し、伏せ字なしには公刊できないものがありました。性を核とする遊楽機関が繁昌した時代に、遊里や演劇やそれを楽しむ下級社会の生活をテーマとして描くことの多かった浮世絵であります。したがって、浮世絵全史を通じて大家巨匠といわれる絵師たちはいずれも秘画に筆をそめています。この種の版画は公共売品ではなくて、彫りも摺りも耕巧をきわめたものが多く、木版技術の上では最高の表現であるかも知れません。師宣らの時代ではまだ肉筆の代用品であり、細巧の技を揮うものではなかったようです。十二枚などの揃い物で、その序図だけは公開しても別状ない図柄となっています。性教育などのなかった時代、娘への性典として授けられもしたのでしょう。款暦の美人風俗画にそれを意味する図柄があります。
菱川師宣 Hishikawa Moronobu