東海道五拾三次之内45番目 庄野宿 しょうの Tokaido53_45_Shono 画題:「白雨」 現在の三重県鈴鹿市で、石薬師から2.7キロメートルで庄野の宿であるが、
保永堂版東海道全五十五枚中、蒲原の「夜の雪」、庄野の「白雨」、そして次の亀山の「雪晴」の三図は役物と称して傑作とされているが、その内でも、この庄野の図は最傑作で、独り保永堂のみでなく、広重全作品中で最高の作品となっている。
ひたひたと坂路を走り、上下する人々の足音と、藪をざわめかしてはサアッと降る夕立の音、しぶき、緊張した筆でよくこの調子と動きを描くつくして、見るものの、耳に眼に、充分感じさせている。ことに、風に向かっている二人の姿の力ある筆には驚嘆せずにはいられない。斜めに走る坂道の草色は、えもいわれない版画の味で、また鼠色を基調とする全幅を、きっかりと区切ってこの画面を引きしめている。絵はどこまでも情趣に生きていて、決して感傷に堕してはいない。しかも奔放で健全で粗野でなく厚みもある。まさに広重一代の傑作である。
歌川 広重 Hiroshige Utagawa