国芳 東都名所・浅草今戸
大判錦絵 揃物 25.1×35.1 cm
落款:一勇斎國芳画 板元:加賀屋吉兵衛 極印
山谷堀に架かる今戸橋の北詰から隅田川に沿い、北方の法源寺辺までの地を今戸と呼び、対岸に向島を見る、名所の一つでした。現在台東区今戸一、二、三丁目のあたりです。「此辺蛾者陶器匠ありて是を産業とする家多し 世に今土焼と称す」と『江戸名所図会』は、この地の名産今戸焼を紹介しています。水辺近く設けられた焼き物竃から立つ夕煙は、都鳥とともに隅田川に風情を添える景物で、浮世絵の画題には多く収められています。異色作家国芳は、この江戸情緒を、近代的な洋風で表現する試みを敢行しました。もっとも今戸の洋風描写は亜欧堂田善が銅版で試みており、よく似た画趣をもちます。低くとった水平線、対岸をやや斜め下がりにして遠近感を出した自然味、人物のプロポーション等すべてが近代画の感党で処理されていなさい。煙の形、陰影のつけ方も面白いです。前景の一本の木が何でもないようで画面を引きしめる効果を見せています。中空にポッカリ浮かんだような藍の筑波山が印象的です。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada