遠江山中 とおとうみさんちゅう Mount Fuji from the mountains of Totomi.
巨大な材木に乗って上から、あるいは材木の下から大鋸を挽き、鋸の目立てをする木挽き職人たちを描いています。足場も三角、足場と材木が描く形も三角、足場から見える富士も三角。奇抜な幾何学的構図がこの作品の一番の特徴です。しかし絵としての完成度は高く、藍摺もこの構図の妙を一層引き立てています。
巨大な材木に乗って木挽きをする職人は、実際の富士よりも高い所で仕事をしているかのように描かれ、本人は無心に鋸を引いているのかもしれませんが、浮世絵を見ている庶民からすれば、富士の峰に立っていると感じられるのです。
材木を支える二本一組の柱も三角形で、したがって、この地が富士世界であることが示されているのです。後々触れる予定ですが、二本の柱を二組立てる構図は何回か利用されており、その一方から富士を覗かせるのは北斎定番の構図です。
葛飾 北斎 Hokusai Katsushika